日本と海外での「人」や「モノ」の行き来が盛んな時代、医療分野も例外ではありません。

例えば、医療現場で使われる薬剤は海外から輸入されたり、また海外へ輸出されるものもあったりします。また、海外に移り住む日本人もいれば、海外から日本に戻ってくる日本人もいます。

その際、医療文書が英語に翻訳されたり、英語文書が日本語に翻訳されたりする必要が出てきます。

ただ、そのような医療文書を翻訳する体制は、日本ではまだまだ発展途上です。それは、医療分野での翻訳の資格も存在せず、翻訳をできる人が特に決まっていないからです。

その中で「質の高い翻訳」を確保するためにはどうすればよいか、以下に説明していきたいと思います。

日本では医薬分野の翻訳のレベルがまだ十分でない

グローバル化の時代、医療翻訳はますます必要になってきています。そのため、多くの人が医療翻訳者を目指しています。

しかし、その多くが医療現場での経験もない人たちです。

果たして、そのような人が「質の高い」医療翻訳を提供することができるでしょうか?

どの分野でもそれぞれの「文化」や「常識」があるように、医療でも医療現場で働いた初めて知ることになる常識があります。

そういった医療の背景を知らない者が医療翻訳をしてしまうと、元の文書の内容および文脈をしっかりと反映した翻訳文はできません。

たとえ医師がその後に翻訳された文書をチェックしたとしても、「間違った文書の体裁を整えるだけ」になる可能性があります。

医学の進歩に伴い、医薬翻訳者の需要が上がっている

日本語から英語、また英語から日本語への翻訳は、さまざまな種類のものがあります。

その中でも、医療分野での翻訳は近年増えていると言われています。

その理由としては「医学の進歩とその国際化」があげられます。

新たな薬の開発やそれらが国際的に使用されていることによって、「薬品情報」「副作用報告」などの文書がより複雑に精密に翻訳が必要となります。

また、医療ツーリズムや人のグローバルな移動により、「医療カルテ」「診断書」「画像読影レポート」など個人の医療文書が国境を越えて必要になってきている背景があります。

このように、特に「日本語から英語」と「英語から日本語」での医療分野における翻訳は、需要がとても高まっています。

需要が高まるにつれて、医療翻訳を始める人も増えてきていると言われています。

実際、「医療」「英語」「翻訳」をインターネットで検索すると、多くの翻訳会社が検索にヒットします。

これだけ医療翻訳の会社が増えている理由の一つに、医療翻訳は国家資格が必要でなくそれまで医療に関わったことのない人が新たに参入しやすいことが挙げられます。

そうった会社の中には、「短期の納期」「低料金」を打ち出しているものも目立ちます。

しかし、豊富な専門的な知識を必要とするはずの医療翻訳で、素人の翻訳家がどれだけこなせるようになるのでしょうか?

たとえば、アメリカの医療翻訳では国家資格が存在します。

Certification for Medical Interpreters
アメリカの医療翻訳の国家資格である『Certification for Medical Interpreters』

アメリカで翻訳や通訳の仕事をする場合、依頼主の会社が指定するトレーニングを修了していなかったり、この国家資格がなかったりするとできないことも多いです。

しかし、国家レベルでの資格がない日では、素人や駆け出しの翻訳者なのに「プロの翻訳者」と名乗ることができてしまします。

患者さんや薬剤に関わる医療翻訳がその程度の質でしかなされないと、安全性の問題などが出てきてしまうのは容易に想像できます。

多くの医療翻訳者は医療分野で働いたことがない

上記で述べた通り、英語の医療翻訳に国家資格などがないために、医療や英語に全くの素人が参入できる状態です。

需要の上がっているこの分野で多くの人が医療翻訳に参加してきて、その結果として医療翻訳の全体のレベルが上がるのなら、よいことだと思います。

しかし、全く医療分野での仕事の経験が全くない人だと、でたらめな翻訳が行われてしまうこともあることは注意しなくてはなりません。

それは、医療現場で仕事をしたことがある人であれば身につけている当たり前の「文化」などがあるからです。

一方で、医療に素人な人だとその要素が欠けているがために、その結果いいかげんな翻訳になってしまうことがあります。

以下は、日本の救急の現場で心配蘇生が行われたときに、行われた処置などが時系列で記載されたリストに関するものです。

この日本語のリストが他社の翻訳会社で英語に翻訳されてから外国の医師に渡されたそうですが、そこで「翻訳文の意味がわからない」とのことで、当サイトに相談があったケースです。

問題のあった翻訳は、元の日本語文が「8時35分 ルートを確保」という部分です。他社の翻訳では、英語で「8:35 secure route」と訳されていました。

他社の翻訳者がどのように翻訳を行ったかは知りませんが、グーグル翻訳などの翻訳サイトで「ルートを確保」と入力すると確かに「secure route(=安全なルート・道順)」と出てきます。

ただ、他社の翻訳者はこの訳が大きな間違いだとわからなかったようです。

その翻訳者は、救急の現場で「急患が通るための安全な道が確保された」とでも思ったのでしょうか?

しかし、医療現場で働いた経験を持つ者からすると、上記の翻訳はでたらめでしかないことがすぐにわかります。

なぜなら、医療現場で「ルート」とは「点滴や薬剤を患者に投与するための、患者の血管に挿入する点滴の針・留置針」のことだからです。

つまり、「8時35分 ルートを確保」は「8時35分に、救急の患者さんに点滴の針が挿入された(英語訳は「8:35 IV line was inserted」)」という意味で英語に翻訳する必要がありました。

医療従事者からすれば「ルート」が何を意味するかは常識ですが、医療に携わったことがなく医療文化になじみのない人だとこのような信じられない間違いをしてしまう可能性があるのです。

今回の「ルート」が「点滴の針・留置針」という意味を持つように、医療ではこのような医療界ならではの常識が数多くあります。

医療に従事したことのない人は医療翻訳をすべきでないとまでは言いませんが、そのような人が英語の医療翻訳をしても高い「翻訳の質」を確保できないのは明らかです。

英語にネイティブの人や日本人医師による監修付きでも、質の高い翻訳とは限らない

他社の日本語・英語による医療翻訳サイトを見ていると、「日本人医師による監修あり」「英語にネイティブの外国人による監修あり」などといったことをアピールしている翻訳会社もあります。

しかし、これらがあるからといって、「質の高い翻訳」が提供されるとは全く限りません。

例えば、英語の医療文書が日本語に翻訳されたとしましょう。

他社の翻訳会社では、これを行うためにまず「英語から日本語への翻訳者」が英文を日本語に変換し、その後「日本人医師ができあがった文書をチェック」していることがあります。

2人のスタッフが翻訳に関わることでより的確な翻訳がなされるだろうと思う人もいるでしょうが、どうでしょうか?

ここで、上記の「英語から日本語への翻訳者」は、医療従事者でないことが多いです。

すると、さきほどの「ルートを確保」の例で見たように、日本語から英語もしくは英語から日本語であれ、医学的な背景を知らないものが医療文書を翻訳してしまうとでたらめな翻訳になってしまうことがあります。

でたらめな翻訳をその後に「日本人医師ができあがった文書をチェック」したとしても、日本人医師は受け取った翻訳文書がでたらめなため困ってしまいます。

上記の「2人体制」の翻訳では、「英語の医療文書が理解できる医療従事者」というポイントが抜けてしまっています。

最終的に「日本人医師がチェックしている」とアピールしていますが、重要なポイントが抜けてしまっていては質の高い翻訳文書ができあがるとは言えません。

別の言い方をすれば、「2人体制」で医療翻訳を行っている他社の翻訳者たちは、「1人の翻訳者」だけで精度の高い翻訳をこなすことができる翻訳者がいないために、そのようなやり方になっているだけなのです。

このように、医療分野での英語文書から日本語文書への翻訳が的確に行われるためには「英語の医療文書・医療文化が理解できる医療従事者」であり、その文書を「日本語の医療文書に変換することができる」スキルを持つ者が行うことが必須です。

これらの条件を満たす翻訳者が、日本とアメリカで医師免許を保持しており、どちらの国でも臨床経験が十分にある、当サイトが契約している医師たちなのです。この場合、1人の翻訳者が翻訳を行う形で十分なのです。

確かなスキル・経験を持たない人が医療文書を翻訳すると、患者の命に関わることがある

以下、間違った翻訳が患者さんの命の危険にさらされたケースを紹介します。

その患者さんはインド在住んでいましたが、認知症で生活が困難になってきたため、家族のサポートが得られる日本に本帰国することのになり、その際インドの医師に英語で診療報告書を書いてもらいました。

そして、日本で継続して持病の診療を受けるため、ある日本の翻訳会社に日本語訳を依頼して、それを日本に帰国した後に近所の開業医に持参しました。

訳されたその日本語の医療文書には「患者は高カリウム血症で入院歴が何度もあります」「高カリウム血症を起こしやすいため、カリウム値の管理に注意すること」とありました。

ただ、患者はインドから持参した内服薬には「カリウム」のサプリメントの錠剤があり、なぜかそれを毎日服薬していました。

ここで、「カリウム」は体に存在する電解質の一種で、血液中の濃度がある範囲内に保たれる必要があります。

カリウムの値が高くなりすぎると不整脈が起きるリスクがあり、逆に低くなりすぎても筋力低下や不整脈のリスクが出てきます。

通常は体が、特に腎臓でその濃度が高くなりすぎず低くなりすぎないように調整されていますが、ときに持病を持っていると薬や食事で調整する必要がでてきます。

また、カリウムが高くても低くでも生じることのある不整脈が起きると、その種類によっては命に関わる状態になることも珍しくありません。

そのため、医師はこのような患者の治療や内服薬の調整をするときはとても慎重になります。

上記の患者さんの例では、「カリウムが高くなりやすい人」なのに「カリウムの内服をしている」ことがつじつまがありませんでした。

その医師は患者さんにカリウムの服薬している理由を聞きましたが、患者さんは痴呆がありその理由を答えることができませんでした。

その場で医師は患者さんの採血をしてカリウムの値を測定することにしましたが、開業医で行う採血では結果が報告するまで数日かかります。

そこで、その医師は翻訳した書類に記載されている「患者が高カリウムを持病として持っている」ことを信じ、また痴呆で患者がカリウムのサプリを飲んでしまっている可能性を考え、採血結果を待つ間はカリウムの錠剤を中止するよう患者に指導しました。

しかしその翌日、患者さんは不整脈を発症して救急病院に搬送されました。

救急で緊急の採血をしたところ、カリウムがかなりの低い値だとわかりました。救急病院にそのまま入院となり、カリウムが投与され一命を取りとめることができました。

後日、入院先の医師が患者の家族に、インドで作成された診療文書を持ってくるよう頼みました。すると、それを見た医師は「カリウム」の翻訳に間違いがあると気づきました。

日本に訳された文書では患者が「高カリウム血症」を起こしやすいとありましたが、元の文書では「hypokalemia=低カリウム血症」と書いてあったのです。

つまり、この患者さんは「低カリウム血症」を持病に持っており、体内のカリウム濃度が低くなるのを防ぐために「カリウムの錠剤を内服していた」のです。

翻訳された診療医療文書が不正確な内容だったがために、医師がカリウムの内服を中止するよう患者に指導し、その結果として患者さんは低カリウム血症を起こしてしまったのです。

確かに、低カリウム血症は英語で「hypokalemia」と書き、高カリウム血症は「hyperkalemia」とつづるので紛らわしいです。

しかし、この翻訳士は「hypo」と「hyper」を混同したようです。この翻訳を間違えている点に、翻訳士が医療に素人だったと感じることができます。

これらを間違えることは、上記の例の通り致命的なことになる可能性があります。

医師や医療従事者にとってそれは常識で、翻訳するときにとても慎重になるため、上記のような間違いは決して起こりません。

このケースは、開業医が受け取った日本語の診療情報が、「カリウム」の間違い以外でもずさんな訳をされた可能性があると考えて、患者に他の翻訳会社に再び全書類を訳しなおしてもらうよう頼み、当サイトに依頼があったものです。

高カリウム血症
「高カリウム血症 HYPERkalemia」「低カリウム血症 HYPOkalemia」の違いに医療従事者は慎重です(写真は本文とは別の患者カルテ)

医療翻訳で国家資格がない理由とその弊害

医療文書といって種類は多く、どの種類の文書に関しても翻訳に関してこれといった翻訳の国家資格はありません。

そのため、素人でも知識を身につけて医療翻訳者になることが可能です。

しかし実際は、医療に素人の人が正確な翻訳ができるまでになるのは不可能に近いです。

それは、まず医師が医学部の6年をかけてやっと習得する知識と同等のものを身につけるのが困難だからです。また、医師のように病院で働いた臨床経験がないと「医療のあたりまえの常識」をしらないため、間違った医療翻訳をしてしまう危険性があります。

そのため、医療文書を適切に翻訳するためには、「医師のように臨床経験を持っている」「日本語の医学用語の精通している」「英語の医学用語に精通している」ことが条件となります。

医療といってもその中で細分化されているため、扱う医療文章の種類が多い

医療分野の文章には、さまざまな種類があります。

医師によって病院で作成される「診断書」や「患者カルテ」のみならず、臨床試験で使用される「治験実施計画書」や「薬品の添付文書」など多岐にわたります。

診断書や患者カルテでは、患者の症状や疾患、また臨床経過などが記載されているため、適切に翻訳するためには単なる医学単語の知識のみならず医師が持っているようなが臨床経験も必要になってくることが多いです。

医学単語だけをとっても、これらの単語は日常的に使わない漢字なども使用されるため、日本人が日本で医師になる場合でも、医学部で日本語の医学単語を習得するは苦労します。

そのため、医療になじみのない素人が医学教育を受けずに正確に日本語で医学単語を身につけて、さらに英語の医学単語を習得するのはとても難しいです。

また、そもそも医師としての経験がないために、翻訳をしようとしても論理的につじつまの合わない文章になってしまうことはよく起こります。

以下は、「他の翻訳会社に依頼して受け取った文章の意味がわからない」と当サイトに相談の依頼があったものです。

以下のカルテは、アメリカに住んでいたときに病院にかかっていたある日本人の患者さんが日本に戻ってきたから引き続き診療を受けるために、ある日本の医療翻訳会社に依頼して作成された日本語訳のカルテです。

COPD、3種類の吸入薬治療2
他社にて日本語に翻訳された患者カルテ

その患者さんは日本語に翻訳されたカルテをクリニックに持っていきましたが、翻訳書類を見たクリニックの日本人医師が「“トリプル吸入器”と翻訳された部分のカルテの意味がわからない」とのことで、より正確に翻訳した書類を持ってくるようにと言われ、当サイトに相談がありました。

当サイトの契約医師は、この件に関しては初めから翻訳をやりなおす必要があると感じたため、患者に英語の原本も提出していただき、再度当サイトより翻訳をやりなおすことになりました。

上記の他社が翻訳したカルテでは「トリプル吸入器を使用継続」という記載があります。英語の原本を見ると、「continue home triple inhaler」とあり、他社では「triple」という単語を「トリプル」に変えただけの翻訳をしたことがわかります。

COPD triple therapy2
英語で書かれた患者カルテの原本

ただ、医療では「トリプル吸入器」というものはありません。英語の「continue triple inhaler」とは「3種類の吸入薬を継続して使用する」という意味です。

これは、英語圏で医療に従事したことのある医師であれば理解できるはずなので、翻訳したのは医療に素人な翻訳者だということがわかります。

また、元の文書の意味が理解されずに翻訳されてしまうと、専門知識を持った日本人医師でも翻訳された文章を理解できないことがあります。

この件では訳されたカルテを受け取った日本人の医師が「翻訳がおかしい」と思ったため、再度翻訳を見直す必要があると気づくことができました。

ただ、もし翻訳された内容が間違っていても、なんとなく文章としての意味は通る形で素人の翻訳者が日本語に翻訳してしまっていると、それを受け取った日本人医師は間違いに気づかないこともありえます。

その結果、間違った治療が患者に提供されてしまう可能性があるのです。

インターネットが普及している今日、翻訳機能なども精度が上がってきています。しかし、それでも専門分野の翻訳まではまだ十分にできているとは言えません。

医療分野の翻訳では、日本語と英語の医学知識だけでなく医師が持っているような臨床経験がないと、正確な翻訳をするのは難しいです。

高度な知識や経験が必要なのに、素人が参入してレベルが下がってしまう

世の中には、その資格を持っていないと仕事に就くことができない職業があります。

たとえば、「弁護士の弁護士資格」や「医師の医師免許」などがそれにあたります。

これらの職業では、国に明確に定めた基準によって専門的なトレーニングを受けたり、国家試験に受かったりすることで、はじめて仕事をすることができます。このようにして、これらの職業では「質」が保たれるのです。

しかし、医療翻訳に国家資格はありません。

このことは、誰でも参入することができ、多くの人が仕事を得るチャンスがあると言えます。ただ、素人でも参入できてしまうため、翻訳者によって翻訳の「質」にばらつきが生じてしまいます。

もちろん、実際に実力がなければ翻訳の仕事を得ることは難しいでしょう。

それでも、素人なのに「我々はプロの医療翻訳者です」と名乗れてしまうため、翻訳を依頼する側からすると優れた翻訳者かどうか見分けるのが困難です。

翻訳会社の中には、他の会社と比べて「低料金」「短期納期」をアピールしているものがあります。これらは、一見すると依頼する側から見たらメリットです。

ただ、そのような会社がどれだけの「翻訳の質」を保っているかは疑問です。

当サイトで契約している医師も、「翻訳の質」を保つために翻訳件数を制限するだけでなく、十分な納期を確保した上で仕上げています。

「高いクオリティ」の翻訳を目指している私たちが提携する医師からすると、「低料金」「短期納期」を強調している翻訳会社の「翻訳の質」には疑問を持たざるをえません。

日本の医師免許とアメリカの医師免許を持ち、両方の国で臨床経験のある医師

当サイトでは、「日本の医師免許」および「アメリカの医師免許」の両方を保持している国際的な医師とのみと契約しております。

さらに、日本とアメリカの両方で臨床経験があり、日常的に診断書や患者カルテを書くことができる者のみです。

日本かアメリカのどちらかの医師免許を持っている人であれば、いくらでもいます。厚生労働省によると、2019年度の日本の全医師数は32万人とのことです。

しかし、「日本の医師免許を持つ」かつ「アメリカの医師免許を持つ」かつ「いずれの国でも臨床経験がある」となると世界的にもわずかな人数しかいません。

そのような医師は、当サイトが把握しているところ世界でも150人ほどしかいません。

そのような医師が医療翻訳をするため、カルテや医療文書の内容・文脈が変わることなく、日本語から英語、また英語から日本語へとスムーズに翻訳すること可能です。

ECFMGとは?ECFMG取得者と医療翻訳能力とのギャップについて

アメリカの医師国家試験として紹介されるものに「ECFMG」というものがあります。

これは、「ECFMG=Educational Commission For Foreign Medical Graduates」の略で、アメリカ以外の医学部卒業生がアメリカの病院に就職するときに必要な資格のことです。

この資格を取得する条件は、アメリカの医師国家試験にあたる1)USMLE Step1、2)USMLE Step2CK、3)USMLE Step2CS、の3つの試験に合格することです。

USMLEのStep1とStep2CKは、決められた試験会場に行きパソコン上で受験する形式の学科試験です。

USMLE Step2CSは、アメリカ人の模擬患者を相手にして、適切な問診および簡単なカルテ記載ができるかが試される実技形式の試験です。

これら全てに合格すると、「ECFMG」の資格が与えられます。

この「ECFMG」を取得すると、アメリカの病院で臨床研修をするための応募をすることができ、採用されれば晴れてアメリカで「研修医」となり、医師として働くことができます。

ECFMG certificate
ECFMG certificate(一部登録番号など個人情報を加工済)

また、「ECFMG」は「アメリカの医師国家試験」と言われることがあります。

しかし、これはアメリカの病院で応募するための条件でしかありません。

「ECFMG」を取得していても、それだけではアメリカで医師として働いたことになりません。

アメリカで医師として働く目標を持ち「ECFMG」を取得した日本人医師でも、一番のハードルは「アメリカの病院に採用されること」です。

しかし、「ECFMG」を取得した者のうちアメリカの研修病院で研修医として採用されるのはほんの一握りでしかありません。

フリーランスの医療翻訳者で、「ECFMG」を持っているとアピールしている翻訳者を見かけることがあります。

ただ、そのような翻訳者は試験に合格して「ECFMG」の取得までできたがアメリカの研修に応募しなかったり、もしくは採用されなかったりなどの理由で、アメリカでの臨床経験が全くないものと想像できます。

アメリカで研修医の医師として採用されていれば、決められた年数のトレーニングを修了することである医学分野の専門医(内科専門医、外科専門医、など)になることができます。

そのため、アメリカの病院に医師として働いた経験があるならば「私はアメリカの〇〇専門医を取得しています」をアピールするはずです。

アメリカ内科専門医の資格
当サイトが契約している医師のアメリカの内科専門医の資格(一部個人情報を加工済)

また、アメリカでの専門医を取得していれば途中段階である「ECFMG」は取得していることは前提でしかないので、あえて「ECFMGを持っている」と言う医師の方が少ないです。

つまり、「ECFMGを取得した」とアピールしている医師は「私はアメリカの臨床経験は全くありません」と言っていることと同じなのです。

そのような「ECFMG」のみを持っているだけの医師とは、当サイトは契約しておりません。

「ECFMG」を取得しただけでなく、その後アメリカの研修医に採用されて、その後「2年以上のアメリカでの臨床研修を終えた者」を条件としています。

「アメリカに研究留学あり」は医療翻訳者として信頼できる?

なお、日本人の医師免許を持っていて「研究留学」でアメリカなどの英語圏に住んだ経験を持つ医師は多いです。

日本の病院に勤務する医師の経歴を見ると「米国ワシントン大学留学・上級研究員」「米国デューク大学留学・〇〇教授に師事」などといったことが書かれていることがあります。

海外留学中のスタッフ
日本のある大学病院のHPに記載されている海外研究留学中の医師たちのリスト(個人情報は加工済)

このような医師は主に日本の大学病院に所属し、その大学が提携している海外の大学に研究をする留学の目的で海外に行った人たちです。

確かにこのような医師も「アメリカでの医師経験あり」とアピールするかもしれませんが、当サイトでそのような医師とは契約しておりません。

なぜなら、「研究留学」目的でアメリカに行ったことがあるだけでは、アメリカの臨床現場で医師として働いたことにはなりません。患者を診察したり、診断書・患者カルテを書いたりしたことがないのです。

「研究留学」をした医師が研究留学時に使った英語といえば、「研究室でのちょっとした日常会話」と「研究論文を書くときの英語」ぐらいなので、「英語での診断書」や「英語でのカルテ」を一度も書いたことがない人ばかりです。

そのため、「研究留学」経験者は臨床現場で使う英語を身につけることができておらず、英語の医療翻訳は不可能です。

まとめ

医療分野での日本語から英語への翻訳、また英語から日本語への翻訳はますます必要性が高まってきています。

ただ、現状として的確な医療翻訳が提供されている体制が日本にあるかというと、まだまだ未熟と言えます。

それは、医療翻訳に特化した資格がなく、また医療に全く素人な人が医療翻訳をしてしまっているのが原因です。

医療文書を適切に翻訳するためには、以下の条件を満たす必要があります。

それは、まず「日本語の医学用語に精通している」「英語の医学用語に精通している」こと。さらに、「日本と英語圏の両方で医師として臨床経験がある」ことが条件となります。

これらの条件にあてはまるのは、日本および英語圏での2種類の医師免許を持っていて、どちらの国でも臨床経験を持っている国際的な医師となります。